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ストラディバリのニス:科学的知見のレビュー - ブルース・H・タイ氏 解説

ストラディバリのニス:科学的知見のレビュー - ブルース・H・タイ氏  解説
以上はブルース・タイ氏の論文の訳を紹介しました。この論文にはpart 1があるのですが、今回はpart 2を分割して訳しました。web上でタイ氏の実際の論文を見てください。写真と分析結果には説得力があります。著作権がありますので図、写真はblogでは紹介していません。表の内容が、この論文の関心がある部分ですので、以下に解説します。
表1の内容
「古典的なイタリアの弦楽器のウッドフィニッシュで特定された物質。」
表はクレモナとクレモナ以外のイタリアの楽器のそれぞれに分けられています。
GC-MS分析結果として同定した結果は以下になります。注意書きのないものはクレモナとクレモナ以外両方で検出されています。major resin主要樹脂とminor resin添加物樹脂に分類しています。
有機材料
亜麻仁油、ウォルナット油はメインの乾性油。(major)
ヴェネチア・テレピン(major)、ロジン(major)
マスティック(minorクレモナ以外)、コーパル(minorクレモナ以外)サンダラック(minorクレモナ以外)、タンパク質(ニスではない層、膠か卵白)、ワックス(minorクレモナ以外)、炭水化物(シーラー、minorクレモナ以外)
無機材料
硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、カリウム長石、アルミニウムシリケート、硫酸バリウム(クレモナ以外)、鉛、酸化鉄(ヴェネチアンレッド)、アンバー土、ヴァーミリオン(またはシンナバー)、オピメント、カーボンブラック(クレモナ以外)、コチニールレーキ(クレモナ以外)、水酸化アルミニウム(クレモナ以外)、マダーレーキ、不明なレーキ、インジゴ(クレモナ以外)
表2の内容
Wood finish comparison between six violins and a viola d’amore made by Antonio Stradivari.
アントニオ・ストラディヴァリが作った6つのヴァイオリンとビオラダモーレの塗料の比較。
the Longuet 1692 , 鉛,鉄
the Davidoff 1708,シッカチフオイル、ウォルナットアルミニウム, 珪素,マグネシウム, ナトリウム、ジテルペン樹脂 マツ科) 鉛,鉄
the Tua 1708 ,シッカチフ, 鉛,鉄,ジテルペン樹脂
the Viotti 1709 ,鉛,鉄,マンガン
the Provigny 1716 ,Hg, Pb,Fe, Mn,アンバー土
the Sarasate 1724,Linseed Oil ,Hg(シンナバー,ヴァーミリオン)ジテルペン樹脂,ヴェネチアンテレピン
viola Early d`amore 1700s,ジテルペン樹脂,カルシウム、硫黄(石膏)、シッカチフオイル、アルミニウム,  珪素,マグネシウム, ナトリウム、卵白(不明)
表3
Varnish recipes in the Marciana Manuscript 
マルチアナ文書のニス処方(1500初期、イタリア).
適用対象、樹脂、溶剤、耐熱、その後の希釈剤、注意。の項目順に記載。
1.ミニチュアや絵画の保護、ベンゾエ、アルコール、非加熱、日陰乾燥。
2.未指定、琥珀、亜麻仁油、加熱、アルコール,ナフサ、亜麻仁油。
3.絵画の保護、ベンゾエ、アルコール、非加熱、速乾性。
4.絵画、金属の保護、ベンゾエ、アルコール、非加熱、日陰乾燥。
5.何にでも、サンダラック、フランキンチェンス、ウォルナット油、加熱、日光硬化。
6.リュートの保護その他、グリークピッチ、マスティック、亜麻仁油、加熱、ガラスのような光沢のある速乾性
7.リュートの保護その他、マスティック、亜麻仁油、加熱、
8.未指定、マスティック、ウォルナット油、ナフサ、加熱、
9.油絵の色と混在、グリークピッチ、マスティック、ウォルナット油、加熱、乾燥性有。
10.絵画の防水、ストラスブルグ・テレピン、加熱、樹脂を溶かして直接塗布する。日陰乾燥。
11.芸術作品を保護する、ストラスブルグ・テレピン、亜麻仁油、ウォルナット油、ナフサ、非加熱、非防水、日陰乾燥。
12.銃、弓、鎧の保護、グリークピッチ、サンダラック、亜麻仁油、加熱、グリークピッチをnaval pitch海軍ピッチで置き換えてより暗い色にする。
13.一般のニス、(vernice commune)グリークピッチ、亜麻仁油、加熱、亜麻仁油希釈
解説
メインの処方はコロホニウムと亜麻仁油またはウォルナット油で、ヴェネチア・テレピンは現代のものとは違うので生松脂的な樹脂と考えてください。有機物はあまり材料がありません。オイルニスに使用可能なマスティック、コーパル、サンダラックを添加しています。琥珀は使用していません。膠は使用されていたでしょうが卵白の分析根拠は弱いものです。「シッカチフオイル」と言うのは、主に亜麻仁油に酸化鉛を添加して加熱します。黄白色の酸化鉛は次第にオイル全体を黒くます。濾過して取り出したものを、乾燥剤シッカチフとして使用します。オイルニスの乾燥を速めるためにシッカチフを添加したものを「黒ニス」と呼びます。無機物のアルカリ金属、アルカリ土類と珪素はパミスのような鉱物の構成物質ですが、完全に構造を決定することは難しいのです。また原子番号が11より小さい(H、He、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne)元素は検出できません。
無機物は鉄は顔料、鉛はシッカチフの添加剤、長石やアルミニウムシリケートなどの鉱物類はパミスやポッツォラーナセメントなどの天然土を意味します。硫酸化合物は石膏か不明です。レーキはマダーレーキで、コチニールレーキも使用していたでしょう。
以外にヴァーミリオンやシンナバー(辰砂、硫化水銀HgS)、オピメント(硫化ヒ素As2S3)を使用しています。絵画の顔料です。
鉱物土は軽石(パミス)、トリポリ(天然煉瓦土)、ポッツォラーナ土(天然セメント)や、石英粉、長石といろいろありますが、特定は不可能です。長石質はモンモリロナイトやカオリナイトなどの粘土質や鉱石を砕いた粉などが考えられます。目止めフィラー(充填剤)は普通に使用していたということです。
あまり特殊な材料はないようです。サッコーニ氏はストラディヴァリのヴァイオリンは、有機物(樹脂)より無機物(フィラー)に秘密があると信じていたようです。
しかし、それほど不思議で意外性のある無機組成は見つかっていません。